2ページ目/全3ページ



   宍戸と別れるという事実で、自分が混乱している最中、ずっと宍戸は、こんな事を

   考えてくれていたのだろうか?


   自分のために、宍戸は、頭を捻ってくれたのだ。


   二人で一緒に、遠い地へ赴いても良いと言ってくれているのだ。


   普段は、本当に可愛らしい人だけど。こんな時、やはり彼は年上の先輩なのだと、

   鳳は思い知らされてしまう。


   自分よりも考え方がしっかりしており、いつも冷静で……彼は、ずっと大人だった。


   鳳は、こんな時に、悔しくてならなかった。


   島に着て最初に、宍戸が「親御さんの言った通りだ。俺達の方が間違っている。」と

   指摘した時も、同じような苦しさを感じた。


   自分とは違う、こんな宍戸の大人びた考え方が、年齢の差を痛いくらい鳳に

   実感させてしまう。


   これが、宍戸へ無茶をしてしまった理由の一つのようにも思えていた。


   彼の誕生日である九月二十九日が来たら、さらに二人には大きな差が出来てしまうのだ。

   「はあ〜。これからは、二歳も年が違うんだよなぁ。」

   鳳の小さな呟き声は、遠くで聞こえている波の音に消されてしまった。


   宍戸の誕生日を嬉しいと思う反面、鳳は、同時に悲しい気持ちも毎年のように味わうの

   だった。


   「うわ〜〜ん、宍戸さん。いつまでも、変わらないでくださいねぇ。俺、頑張って、

    早く大人になりますから。それまで、呆れずに待っていてくださいねぇ。


   宍戸さんが驚くくらい……もっと、ビックな男になりますから……。」

   宍戸は、鳳の腕の中で苦しかったが、この部分にはツッコミを忘れなかった。


   ……それ以上、お前がデカくなってどうすんだよっ! 俺を押しつぶす気なのかよッ! 」


   彼の巨体を抱きしめ返すには、宍戸の体力はすでに限界点に来ていたのだった。


                         ★



   鳳は、翌朝になり、宍戸に促されて自宅へ帰宅の報告をした。

   時間をかけて国際電話をかけている鳳の後ろ姿を、宍戸は微笑んで見つめていた。


   鳳が電話を済ませて、朝食の食卓へ帰ってきたので、宍戸は、鳳へ結果を聞いてみた。


   はい。良い旅行で良かったね……と、父も母も言っていました。」


   その鳳の台詞に、宍戸は首をかしげていた。


   鳳は、家出をしていたのでは無かったのだろうか? 


   どうして、そんな暖かな会話が電話で展開するのだろうか?


   ふと、宍戸は疑惑を感じて、パンにバターを塗って食べ始めた鳳に、こんな質問をした。


   ……なあ、お前。両親には、何て言って家を出て来たんだ? それとも……

   置手紙なんかを部屋に残してきたのか? 」


   鳳は、驚いた顔をして、宍戸を見つめた。


   「えっ? 朝、玄関口にタクシーを呼んでもらって、母に『海に行ってきます』と言って、

   出てきましたけど? それが、何か? 」


   宍戸は、思わず、スクランブルエッグを食べようと握っていたフォークを、鳳へ

   向かって投げ付けてしまった。


  「……そ、それのドコが家出なんだッ? 

   まるっきり楽しい旅行へお出かけの図じゃね〜かよッ! 」


   間一髪で、顔面へのフォークの直撃を避けた鳳は、慌てた様子で言葉を付け足した。


  「でも……俺。行き先を両親へ告げずに、外出したのは、これが初めてなんですよ。

   親に内緒で、恋人と一緒に旅行をするなんて……。凄い勇気のいる事だったんです。

   もう……今でも、心臓が爆発しそうですから。


   ああ、宍戸さんと一緒に、こんな楽園みたいな島で、朝食を食べているなんて、

   夢みたいです……。」


   危うく宍戸は、右手で握っていたナイフまで、鳳に投げそうになったが、何とか理性を

   総動員して自分の気持ちを押さえ込んだ。


   鳳の家が深刻な状態で無かったのは喜ばしい事なのだが、何か根本的に納得できない。


   この常識外れの大馬鹿者を、誰か何とかして欲しい。


   本気で、そう思ってしまった宍戸亮だった。





      1ページ目へ戻る          3ページ目へ進む


                               小説目次ページへ戻る